東京高等裁判所 平成6年(行ケ)94号 判決 1997年11月11日
東京都豊島区南池袋1丁目16番18号
原告
株式会社エムアンドシーシステム
同代表者代表取締役
橋本哲夫
同訴訟代理人弁護士
沖信春彦
同
出縄正人
同
平石孝行
同訴訟代理人弁理士
川崎仁
同訴訟代理人弁護士
熊倉禎男
同
田中伸一郎
同
吉田和彦
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官
荒井寿光
同指定代理人
長島和子
同
田中弘満
同
八巻惺
同
吉野日出夫
川崎市中原区上小田中1015番地
被告補助参加人
富士通株式会社
同代表者代表取締役
関澤義
同訴訟代理人弁護士
水谷直樹
同訴訟代理人弁理士
井桁貞一
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は原告の負担とする。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
(1) 特許庁が平成1年審判第8527号事件について平成6年3月11日にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文同旨
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和60年5月29日、特許庁に対し、名称を「レシート」とする考案(以下「本願考案」という。)について実用新案登録出願(昭和60年実用新案登録願第80300号)をしたが、平成元年3月9日、拒絶査定を受けたため、同年5月11日、審判を請求した。特許庁は、この請求を平成1年審判第8527号事件として審理するとともに、平成4年4月27日、実用新案出願公告(平成4年実用新案出願公告第18868号、以下、この公告公報を「本願公報」という。)を行ったが、訴外株式会社タツノ・メカトロニクスから異議の申立てがなされた。そこで、特許庁は、平成6年3月11日、異議の申立ては理由がある旨の決定とともに、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年4月6日、原告に対し送達された。
2 本願考案の要旨(実用新案登録請求の範囲の記載)
レシートを発行した店名が記載された発行店名欄と、
発行したレシートを特定する番号が記載されたレシート発行番号欄と、
レシートが発行された発行時点が記載された発行時点欄と、
今回購入した商品の商品名が記載された商品名欄と、前記商品毎の購入額が記載された購入額欄と、前記購入額を合計した合計購入額が記載された合計欄と、預り金額が記載された預り金額欄と、釣銭額が記載された釣銭額欄とを有する購入額明細欄と、
前記購入合計額に応じた今回ポイントが記載された今回ポイント欄と、前記今回ポイントを含み今回購入時までの所定期間の購入により発生したポイントを累計した累計ポイントが記載された累計ポイント欄とを有するポイント表示欄と、
商品の購入に利用したカードの番号が記載されたカード番号欄と
を有することを特微とするレシート(別紙図面(1)参照)
3 審決の理由の要点
(1) 本願発明の要旨は前項に記載のとおりである。
(2)ア これに対し、昭和58年特許出願公開第149561号公報(以下「引用例1」といい、同引用例記載の発明を「引用発明1」という。)には、次の記載がある(別紙図面(2)参照)。
「顧客が買上げ金額に応じた枚数のクーポン券の発行を要求するケースであり、…買上げ金額に対するクーポン券枚数を演算レジスタ46ヘストアし、続いてステップ81で演算レジスタ46の内容をクーポン券兼レシートに印字する。…買上げ明細、合計金額およびクーポン券枚数が印字されたクーポン券兼レシート100が発行される。」(3頁右上欄4行ないし左下欄1行)
「顧客が店側において買上げ金に対するクーポン券枚数を集計し、ストックしておくことを要求するケースであり、…顧客コードを有する在来の顧客についてはコード番号(例えば123)を置数した後、クーポン券キー25を押す。…この集計値Ciがそのままクーポン券兼レシート100に印字される。」(3頁左下欄2行ないし4頁左上欄2行)
これらのことは、図面を参照すると、次の事項が記載されているものと認められる。
「買上げ明細欄と、合計金額欄と、買上げ金額に応じたクーポン券枚数欄あるいはクーポン券枚数を集計した集計値欄と、顧客コード番号欄とを有するクーポン券兼レシート」
イ また、昭和51年特許出願公開第78961号公報(以下「引用例2」といい、同引用例記載の発明を「引用発明2」という。)には、次の内容についての記載がある(別紙図面(3)参照)。
「顧客用レシートにおいては、「店名スタンプ」、「日付」、「商品コード」、「金額明細」、「カード会社番号」、「会員番号」、「レジスタ番号」、「レジスタ別取引番号」等が印字されること」(2頁左下欄4行ないし8行参照)
ウ 更に、昭和54年特許出願公開第114148号公報(以下「引用例3」といい、同引用例記載の発明を「引用発明3」という。)には、次の内容が図面とともに記載されている(別紙図面(4)参照)。
「レシートに、「商品販売データ」、「合計データ」、「預り金額データ」、「レシートナンバー」、「釣銭データ」が印字されること」(4頁右下欄7行ないし13行参照)
(3) そこで、本願考案と引用発明1とを比較すると、
ア 引用発明1における「買上げ明細欄」、「合計金額欄」、「買上げ金額に応じたクーポン券枚数欄」、「クーポン券枚数を集計した集計値欄」、「クーポン券兼レシート」は、それぞれ、本願考案における「商品名欄」及び「購入額欄」、「合計欄」、「今回ポイント欄」、「累計ポイント欄」、「レシート」に相当し、更に、引用発明1において、多数の顧客のコードを入力し、「顧客コード番号欄」に表示するためには、それぞれの顧客がコードを表すものを持っていること(つまり、コードを表すカードに相当するものを商品購入の際に利用すること)が前提となるので、引用発明1の「顧客コード番号欄」は、本願考案の「商品の購入に利用したカードの番号が記載されたカード番号欄」に相当する。
したがって、両者は、
「今回購入した商品の商品名が記載された商品名欄と、前記商品毎の購入額が記載された購入額欄と、前記購入額を合計した合計購入額が記載された合計欄とを有する購入額明細欄と、
ポイント表示欄と、
商品の購入に利用したカードの番号が記載されたカード番号欄と
を有することを特徴とするレシート」
である点において一致する。
イ しかしながら、両者は、次の点において相違する。
(ア) 相違点1
本願考案においては、今回ポイント欄と累計ポイント欄の両方が記載されているのに対し、引用発明1においては、今回ポイント欄と累計ポイント欄とが選択的に記載されている点
(イ) 相違点2
本願考案においては、レシートを発行した店名が記載された発行店名欄と、発行したレシートを特定する番号が記載されたレシート発行番号欄と、レシートが発行された発行時点が記載された発行時点欄と、預り金額が記載された預り金額欄と、釣銭額が記載された釣銭額欄が記載されているのに対し、引用発明1にはその点の記載がない点
(ウ) 本願考案においては、商品名欄に商品名が記載されているのに対し、引用発明1においては、番号が記載されている点
(4) 上記相違点について検討する。
ア 相違点1について
今回ポイント欄と累計ポイント欄の両方を記載するものが、いずれか一方を選択して記載するものに比べて、格別な作用効果を奏するものと認められない。
したがって、本願考案において、上記の両方を記載することは、当業者が必要に応じてきわめて容易に想到し得た程度のことに過ぎない。
イ 相違点2について
本願考案のように、レシートに、発行店名欄、レシート発行番号欄、発行時点欄、預り金額欄、釣銭額欄を記載することは、引用発明2及び3に示すように周知の事項であり、どの欄を記載するかは、当業者が適宜選択し得ることである。
ウ 相違点3について
本願考案のように、レシートに商品名を記載することは周知技術である。
エ そして、本願考案の作用効果も、各引用発明及び周知技術から予測される程度のものに過ぎない。
(5) したがって、本願考案は、当業者が、各引用発明及び周知技術に基づいてきわめて容易に考案することができたものと認められるから、実用新案法3条2項の規定により実用新案登録を受けることができない。
4 審決を取り消すべき事由
審決の理由の要点(1)、(2)は認める。
同(3)アのうち、引用発明1の「クーポン券枚数を集計した集計値欄」、「顧客コード番号欄」が、それぞれ、本願考案の「累計ポイント欄」、「商品の購入に利用したカードの番号が記載されたカード番号欄」に相当すること、本願考案と引用発明1が、「商品の購入に利用したカードの番号が記載されたカード番号欄を有すること」において一致することはいずれも否認し、その余は認める。
同(3)イは認める。
同(4)ア、イ、エは争う。
同(4)ウは認める。
同(5)は争う。
審決は、本願考案における「商品の購入に利用したカードの番号が記載されたカード番号欄」及び「累計ポイント欄」の技術的意義の認定をいずれも誤り、それらが引用発明1の「顧客コード番号欄」、「クーポン券枚数を集計した集計値欄」にそれぞれ相当するものと誤認した結果、一致点の認定を誤ったものであり、かっ、本願考案と引用発明1との間における相違点1、2についての判断をいずれも誤ったものであって、違法であるから、取り消されるべきである。
(1) 本願考案における「商品の購入に利用したカードの番号が記載されたカード番号欄」が、引用発明1の「顧客コード番号欄」に相当しないことについて(一致点の認定の誤り、取消事由1)
ア 本願考案に係るレシートは、後記イのとおりの磁気カードの使用を前提とした、レシートを発行するシステムが背景となっているものである。
本願考案を理解するために、上記のシステムの一例について、ここでその構成を説明するならば、次のとおりである。
(ア) このシステムに加入している店舗は、顧客に対し磁気カードを発行して、顧客を特定するカード番号を付与する(本願公報6欄11行ないし14行)。
(イ) 顧客が商品購入時に呈示したカードは、POS末端装置に挿入される。POS末端装置は、挿入されたカードから、カード番号及び前回までの累計ポイントを読み取る(同6欄15行ないし18行、22行ないし23行)。
(ウ) POS末端装置は、今回の購入についての明細を入力することにより、合計金額を計算するとともに、預り金額を入力することにより、釣銭金額を計算する(同6欄26行ないし33行)。
(エ) POS末端装置は、今回の購入額に応じて今回ポイントを計算し、予め読み取られた前回までの累計ポイントに今回ポイントを加算して、新たな累計ポイントを計算する(同6欄34行ないし37行)。
(オ) (エ)で計算された新たな累計ポイントは、POS末端装置の書込み機能を用いてカードに記録される(同6欄38行ないし39行)。
(カ) POS末端装置は、レシートの各欄に必要事項をプリントし、打ち出されたレシートは顧客に手渡される(同6欄43行ないし7欄1行)。
(キ) POS末端装置は、各店舗に設けられたコントローラを介してホストコンピュータに接続され、ホストコンピュータには、顧客情報を格納した顧客データバンクが接続されている。
上記(イ)においてカードから読み取られたカード番号及び前回までの累計ポイントは、コントローラ、ホストコンピュータを介して、顧客データバンクに照会される(同6欄18行ないし25行)。
上記(エ)で計算された新たな累計ポイントは、上記(オ)のとおりカードに記録されるほか、POS末端装置、コントローラを介して、ホストコンピュータにより、顧客データバンクに格納される(同6欄38行ないし42行)。
イ そこで、本願考案についてみるに、本願考案における「カード」とは、「磁気カード」を意味するものと解すべきである。
(ア) すなわち、実用新案登録出願に係る考案の要旨の認定は、基本的に、考案の詳細な説明等を参照の上、実用新案登録請求の範囲の記載に基づいてなされなければならない(最高裁昭和50年5月27日判決・判時781号69頁、同平成3年3月8日判決・民集45巻3号123頁参照)。
そして、「カード」とは多義的な用語であり(例えば、岩波国語辞典第5版160頁には、「カード」について、「小型、長方形の厚紙類」「トランプ」「クレジットカード、キャッシュカード、プリペイドカードなどの総称」「試合の組合せ」の4つの意味が記載されている。)、本願考案の実用新案登録請求の範囲の記載のみからでは、本願考案における「カード」の技術的意義を一義的に明確に理解することができないから、その意義を明らかにするために、本願明細書における「考案の詳細な説明」欄の記載を検討する必要がある。
(イ) そうすると、上記の「考案の詳細な説明」欄における「従来の技術」の項には、「近年、商品を購入したり、サービスの提供を受けたりした際にカードを用いて支払いするシステムが多く採用されている。」(本願公報2欄4行ないし6行)との記述があるが、この「カードを用いて支払いする」場合の「カード」とは、通常、磁気カード以外に考えられない。
次いで、同項には、「特にデパート(略)では、自社カードを発行し、この自社カードを通じて顧客の流動化を防ぎ、固定化を図ろうとしている。」(同2欄6行ないし9行)との記載があるが、この「自社カード」が磁気カードを指していることも明らかである。
これに続けて、同項には、「自社カードを用いることにより、顧客がどのような商品をいつ購入したかという顧客情報をきめ細かく収集し、顧客がどのような商品を欲しているかという顧客ニーズを適格に把握することができる。」(同2欄9行ないし13行)との記載があるが、このような機能を発揮するためには、「カード」が磁気カード(又はそれより高度のカード)であることが不可欠であり、手書きのものや、印刷されたものであってはならないことは明らかである。
(ウ) また、本願考案が解決しようとする課題は、「一種の金券として機能している」レシートが「紛失した場合に利益を享受できる顧客を特定することができず、拾われて悪用され」ることのないようにすることであり(同3欄32行ないし35行)、そのために、本願考案に係るレシートについてカード番号が存する構成を採用したものである。したがって、本願明細書においては、上記のレシートが「紛失した場合」について、「レシートを紛失しても累計ポイントが顧客データバンクに記録されているので、磁気カードと共に照会することによりレシートを再発行して累積ポイントのサービスを受けることができる。」(同7欄5行ないし9行)と記載されている。
この点からみても、本願考案における「カード」は、磁気カードであることが明らかである。
(エ) 更に、本願明細書の「考案の詳細な説明」欄中の記載においては、「カード」とは、POS末端装置に挿入される磁気カードであることが明示されている(同6欄11行以下)。
(オ) そして、本願考案の「カード番号」は、「顧客が商品購入の際に使用したカードの番号」であり、「顧客を特定するために任意に定められる。」(同5欄22行ないし25行)ものであって、磁気カードの発行の際、カードに記録される顧客を特定する番号である(同6欄13行ないし14行)。
(カ) 以上のように、本願考案において、レシートの「カード番号欄」に印刷される「カード番号」とは、磁気カードの使用を前提とし、磁気カードを挿入した結果が自動的に印字されたものである。
(キ) なお、これらのことは、本願考案に係るレシートに「ポイント表示欄」があり、そこには「今回ポイント欄」と、「今回購入時までの所定期間の購入により発生したポイントを累計した累計ポイント欄」とが存するところ、磁気カードの使用を前提とした一定の演算を行うシステムがなければ、「累計ポイント欄」のような計算をなし得ないものであることからも裏付けられる。
ウ これに対し、引用発明1における「顧客コード」は、単なる顧客の番号であり、コード番号を人間が置数するという原始的な方法を採ることにより印字されるものであって、いかなる種類のカードの使用をも前提とするものではなく、また、引用例1には、磁気カードの使用を示唆する記載は一切存在しない。
したがって、引用発明1における「顧客コード」は、本願考案における「カード番号」とは異なる。
エ なお、被告は、本願考案の実用新案登録請求の範囲に記載された「カード」は、乙第2、第3号証に示されるような「磁気カード」以外のカードを含むと主張するが、同号証におけるクレジットカードが通常磁気カードであることは常識に属することであり、磁気カードでないものは例外的である。
また、被告は、本願考案の実用新案登録請求の範囲には、「預り金額欄」と「釣銭額欄」の記載があることから、本願考案に係るレシートは、現金販売によるものもその対象として含み、この記載からも、本願考案における「カード」は磁気カードに限定されるものではないと主張するが、本願考案に係るレシートが「預り金額欄」と「釣銭額欄」を含んでいるのは、顧客の中に「カード」を有しながら現金で商品を購入する者がいるからであり、レシートとしての性格上当然のことである。
したがって、これらのことをもって、本願考案における「カード」が磁気カードではないとすることはできない。
オ そして、本願考案に係るレシートは、磁気カードに基づく「カード番号欄」を有することにより、単なる「顧客コード」を表示するだけの引用発明1に比較して、次のような顕著な具体的作用効果を奏するものである。したがって、審決における上記イ、ウの相違点の看過が、審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
(ア) 金券としての機能の発揮
a(a) 本願考案に係るレシートにおいては、磁気カードの使用が前提とされ、最新の累計ポイントが顧客の保持しているカードに記録されるため、レシートから、顧客及び購入実績の特定が可能である。そのため、店舗側としては、レシートに表示されたポイントに対応するサービスを請求された場合、レシートの内容をカード、もしくはホストコンピュータに接続された顧客データベースの記録情報と照合することが可能となり、レシートの不正使用のチェックが可能となる。
したがって、本願考案においては、特別なクーポン券の発行を要することなく、顧客が、店舗に対し、レシートを呈示することによりサービスを請求することが可能となり、レシートは一種の金券として機能するという作用効果を奏する。
(b) これに対し、引用発明1においては、顧客がクーポン券兼レシートを呈示して、クーポン券の枚数に応じたサービスを請求する際、磁気カードの使用が前提とされていないから、店舗側にとっては、そのレシートを持参した者が真の権利者であるか否かが不明である。したがって、引用発明1に係るレシートは、レシートの拾得者等による不正使用に対して無力である。
b(a) また、引用発明1においては、顧客が、クーポン券枚数の集計値が記されたレシート(引用例1に記載の「実施例」中の「第2の方法」によるもの)を呈示して、サービスを請求することは予定されておらず、レシートに金券機能がまったくない。
すなわち、引用発明1に記載の「第2の方法」においては、クーポン券兼レシートが発行され、そこにクーポン券枚数の集計値Ci(例えば30枚)が印字されるが、その後の買い物において、同様に「第2の方法」が選択された場合には、本来は、その買い物における買上げ金額に相当するクーポン券枚数(例えば20枚)を前回の集計値に合計した枚数(50枚)が、新しい集計値Ciとなるはずである。しかしながら、そうすると、顧客の1回目の買い物の買上げ金額に相当するクーポン券枚数は二重にカウントされることとなる(顧客は、30枚を表示したレシートと、50枚を表示したレシートの2枚、80枚分を持つことになる。)から、引用発明1においては、顧客が「第2の方法」により発行されたレシートを呈示してサービスを請求できるものとはされていない。これは、上記a(a)のように、引用発明1には、メモリに記憶された過去の集計枚数を照会する方法が何ら開示されていないためである。
そこで、いったん、「第2の方法」を用いた後に、ストックされたクーポン券枚数分のサービスを店舗側に請求するためには、「第2の方法」における「特別のクーポン券」(引用例1・4頁左上欄8行)か、「第3の方法」により発行された「クーポン券兼レシート」の発行を要することになる。しかし、前者の「特別のクーポン券」は明らかにレシートではないし、後者の「クーポン券兼レシート」も、「商品の買上げとは無関係に、過去集計されたクーポン券の払出しを要求するケース」(同4頁左上欄11行ないし13行)であるから、やはり、厳密な意味でのレシートではない。
以上のように、引用発明1においてクーポン券枚数をストックしておく場合については、発行される「クーポン券兼レシート」は、単なるレシート(「第2の方法」)か、単なるクーポン券(「第3の方法」)に過ぎないものであって、1枚で金券とレシートの両方の機能を有するもの(すなわち、金券機能を有するレシート)ではない。
(b) これに対し、本願考案に係るレシートによる場合には、磁気カード及びカード番号の使用により、その表象するポイントについて、顧客に真に請求権があるか否かを容易かつ確実に知ることができるから、顧客としても、別にクーポン券の発行を受けることなく、累計ポイントの記載されたレシートそのものを呈示することによって、サービスを請求することができる。したがって、本願考案に係るレシートは、まさに、金券たるレシートというに相応しいものである。
(イ) レシートの紛失に対する対応
a 本願考案においては、仮に、顧客がレシートを紛失したとしても、前記(ア)aの方法により、第三者の不正使用を避けることができるだけでなく、本来の権利者も、正当に権利を行使することができる。
b これに対し、引用発明1に係るレシートにおいては、実施例における「第1の方法」及び「第3の方法」を用いた場合、前記(ア)b(a)のとおり集計値Ciが既に払い出されて減少しているから、レシートを再発行することが不可能であり、また、「第2の方法」を用いた場合には、一応、レシートの再発行の可能性はあるものの、真の権利者を知ることができないから、実際に再発行することはできない。
c また、引用発明1における「第3の方法」により「クーポン券兼レシート」を受け取ること自体は、本願考案におけるサービスー(主として割引又は景品、本願公報2欄16行及び17行)を実際に受けるということとは異なる。
すなわち、サービスにより、割引又は景品を受けるということは、商品の購入に際し、具体的な割引又は景品を受けることであり、単に割引券や商品券を受け取るだけでは足りない。なぜならば、割引券や商品券を受け取るだけでは、それらを紛失してしまえば、もはや具体的な便益は得られないからである。
本願考案は、前記aのとおりレシートを紛失しても具体的な便益を得ることを保証しており、その点において、引用発明1の「第2の方法」とは異なる。
(ウ) 対象人数の相違
a 本願考案の「カード番号」は、磁気カードを使用することにより、取扱い可能な人数にまったく制限がない。
b ところが、引用発明1においては、一つのレジスターでしか印字することができず、顧客コードは、人間の手により置数されることが前提とされていることから、顧客については、どんなに多くとも1000人位までしか扱えない。
このように、「顧客コード」は、一定数以上の顧客を現実には扱えないという意味で、「カード番号」と質的に異なるものである。
(エ) 複数の店舗における利用可能性
a 本願考案においては、磁気カードを用いることが前提とされているため、本願考案と不可分の関係にあるシステムにおいては、「各店舗にPOS端末装置とコントローラを設けるだけでよいので、小型店でも容易に導入でき、各チェーン店で共通の顧客データバンクを用いて顧客情報の管理が可能である。」(本願公報7欄14行ないし18行)という特徴がある。
したがって、本願考案においては、上記システムに加盟した異なる無数の店舗において、ポイントが計算され、顧客がレシートに記載された点数分のサービスを受けられるということを可能にしている。
b これに対し、引用発明1における「クーポン券枚数の集計値をストックするエリアを有するメモリ」は、1台のキャッシュレジスタに存するだけである(特許請求の範囲参照)から、クーポン券の枚数が累計されるのは、当該レジスタで購入した買い物の場合に限られる。
以上のように、両者のレシートには、複数の店舗又はレジスタでのポイントが累計されて表示されるか否か及び複数の店舗での権利の行使が可能か否かという作用効果の違いがある。
(オ) 更に、本願考案においては、レシートから、カードに記憶された情報の内容を知るという画期的な方法が可能とされている(前記ア参照)。
カ 以上のとおりであるから、審決には、本願考案における「商品の購入に利用したカードの番号が記載されたカード番号欄」が、引用発明1の「顧客コード番号欄」に相当するとした点において、一致点の認定を誤った違法がある。
(2) 本願考案における「累計ポイント」が、引用発明1の「集計値」に相当しないことについて(一致点の認定の誤り、取消事由2)
ア 上記の本願考案における「累計ポイント」と、引用発明1における「集計値」とは、<1>前記(1)オ(エ)のとおり、店舗の他のレジスタでの買上げ金額(当該店舗がチェーン店の一店である場合には、チェーン内の他の店舗での買上げ金額をも含む。)をも含めた買上げ金額の合計に対応するポイントの累計であるか否かという点、<2>前記(1)オ(ア)bのとおり、現在において、請求できるサービスの量を示すポイントが過不足なく表示されているか否かという点において、構成が異なるものである。
イ そして、<1>については、前記(1)オ(エ)のとおり、本願考案は、顕著な作用効果を有するものである。
ウ また、<2>については、これを更に詳述するならば、
(ア) 本願考案における「累計ポイント」は、最新のレシートの発行時点において請求できるサービス量についてのポイントが、過不足なく表示されている。
(イ) これに対し、引用発明1における「集計値」は、以下のとおり、レシートの発行時点において請求できるサービス量についてのクーポン券枚数を、過不足なく示すものではない。
a 引用発明1における「実施例」の「第1の方法」(クーポン券枚数を集計、ストックしておくことを要求せず、単に、買上げ金額に応じた枚数のクーポン券の発行を要求する方法)による場合には、それ以前に発行されたレシートに表象された権利が行使されていなければ、上記方法により新たに発行されたレシートは、その顧客がその時点において請求し得るサービスの総量よりも少ない量のサービスを示すクーポン券の枚数を示すことになる。
b 上記実施例の「第3の方法」を採り、顧客がクーポン券の発行を受けた場合には、常に集計値Ciはその発行後にクリアされてしまう(引用例1・4頁右上欄7行)から、その後の買い物において、いかなる方法によってクーポン券の発行を受けても、そのときの「集計値」は、当初の「第3の方法」により発行されたクーポン券に表示のクーポン券枚数が加算されることはあり得ない。
このように、引用発明1においては、顧客が過去に「第3の方法」を選択し、そこに表象された権利を行使しないうちは、その後に発行されるレシートには、常に、その顧客が最新のレシートの発行時点において請求し得るサービスの総量よりも、少ない量のサービスを示すクーポン券の枚数が示されることになる。
c 上記実施例の「第2の方法」による場合においては、まず第1に、前記(1)オ(ア)のb(a)のとおり、そこで示された量のサービスを直接受けることができない(つまり、金券機能がない。)。すなわち、集計値Ciは、その券を呈示して受け取ることのできるサービスの量を示している訳ではない。
第2に、引用発明1においては、買い物毎に三つの方法の選択が可能であるところに特徴があるから、「第2の方法」を採る前に、「第1の方法」又は「第3の方法」が採用される場合が通常であると考えられるが、それらの場合において、従前のクーポン券兼レシートが使われずに残っていたならば、「第2の方法」の集計値は、その分について表象するものではない。したがって、そこにおいては、「顧客が一見してポイント表示欄の記載から自分の受けるサービスの価値を知ることができる」という効果が貫徹されていない。
第3に、引用発明1においては、「第2の方法」を利用しても、サービスを受ける前に、「特別クーポン券」又は「第3の方法」によるクーポン券の発行を受けることになっている。特に、「特別クーポン券」が発行された場合には、その後の「第2の方法」によるレシートには、サービスを請求できる総量が表象されていないことは上記のとおりである。
エ したがって、本願考案における「累計ポイント」と、引用発明1における「集計値」は、現在において、顧客が請求し得るサービスのすべてを最新のレシート発行時に表しているか否かという点において、明確に相違しているものであり、構成が異なるものである。
その結果、本願考案に係るレシートは、引用発明1にはない、「顧客が一見してポイント表示欄の記載から自分の受けるサービスの価値を知ることができる」という顕著な作用効果を奏するものである。
オ 以上のとおりであるから、審決には、本願考案における「累計ポイント」が、引用発明1の「集計値」に相当するとした点において、一致点の認定を誤った違法がある。
(3) 相違点1の判断の誤りについて(取消事由3)
ア 審決は、レシートにおいて、「今回ポイント欄」と「累計ポイント欄」との両方を記載する本願考案の構成は、当業者が必要に応じてきわめて容易に想到し得た程度のことに過ぎないと判断し、更に、この点について、被告は、具体的に、引用発明1の「第1の方法」によるクーポン券兼レシートの「今回ポイント」の記載を、累計ポイントが記載された「第2の方法」に適用することは、「当業者がきわめて容易になし得た程度のこと」であると主張する。
しかしながら、引用例1においては、「第1の方法」によるレシート中のある要素を、「第2の方法」によるレシートに適用することについて、何ら示唆していない。
また、引用発明1においては、磁気カードの利用が前提とされていないため、3種のクーポン券兼レシートが必要なのであって、これらを組み合わせることは、そこでは想定されていない。
更に、引用発明1の「第1の方法」によるものは、文字通りクーポン券兼レシートであるが、「第2の方法」によるものは「クーポン券」ではなく、「レシート」に過ぎず、両者の性質は異なっている。
加えて、引用発明1の「第1の方法」によるクーポン券兼レシートは、ポイントを貯める方式によるものではなく、クーポン券をその都度渡す従来のものと同様の方式に基づくものに過ぎない。
したがって、「第1の方法」によるレシートと、「第2の方法」によるレシートとは、同じレシートであることを理由に、前者を後者に適用することはきわめて容易であったとすることはできない。
イ また、審決は、本願考案に係るレシートにおいて、「今回ポイント欄」と「累計ポイント欄」の両方を記載することは、その一方を選択して記載するもの(引用発明1)に比べ、格別の作用効果が認められないとしたが、上記の両欄を記載するものは、一方を記載するものに比べて、格別の作用効果が認められるところであるから、その点からも、本願考案は、当業者において容易に想到されたものではない。
すなわち、
(ア) レシートにおいて、「今回ポイント」のみを表示した場合においては、
a 「累計ポイント」が表示されないため、ポイントを増やす楽しみを実感できず、継続利用の促進に繋がらない。
b 商品を購入する都度、「累計ポイント」が分からないため、追加購入やワンストップのまとめ買いに繋げるためのポイント効果が弱い。
c 「今回ポイント」が「累計ポイント」に実際に加算されているか否かをその場で確認することができず、ポイントサービスに対する不信感に繋がりかねない。
d 「累計ポイント」を確認するためには、別末端による照会もしくは別オペレーションによる照会が必要となり、手間が掛かる。
e カードを利用した顧客に対し、定期的に郵送により「累計ポイント」を告知する等の対応が必要となり、余分なコストがかかる。
f 「今回ポイント」のみの表示では、購入額に応じたスタンプ枚数を配布するスタンプシステムと何ら変わらず、他社との差別化に繋がらない。
(イ) また、「累計ポイント」のみを表示した場合においては、
a 購入額に応じた「今回ポイント」が、「累計ポイント」に加算されていることについて確認できないため、小さな買い物でもポイントをためて大きなサービスを受けられることが実感できず、次の購入に繋げるためのポイント効果が弱い。
b 「今回ポイント」が規定の換算率で付されているか否かを確認できず、ポイントサービスに対する不信感に繋がりかねない。
c 販売促進策として、ポイントを通常の2倍ないし3倍とした場合にも、その「今回ポイント」が表示されないと、その点が顧客に認識されず、効果が半減する。
(ウ) 本願考案は、レシートに、「今回ポイント欄」と「累計ポイント欄」の両万を設けることにより、上記問題点を解消するという作用効果を奏するものである。
(4) 相違点2の判断の誤りについて(取消事由4)
ア 審決は、相違点2について、「レシートに、発行店名欄、レシート発行番号欄、発行時点欄、預り金額欄、釣銭額欄を記載することは、引用発明2及び3に示すように周知の事項であり、どの欄を記載するかは、当業者が適宜選択し得たことである。」とするが、ポイントを記載しないレシートにあってはその通りであるものの、本願考案のように、ポイントを記載するレシートにあっては、上記判断は誤りである。
イ すなわち、本願考案においては、レシートにポイントを表示し、一種の金券としても機能させるため、レシートに、発行店名欄、レシート発行番号欄、発行時点欄、カード番号欄を加えて記載し、それにより、発行されたレシートが、どの顧客のもので、どの購入実績のものであるかを確実に特定できるようにして、レシートの紛失や不正使用に対し配慮している。
本願考案に係るレシートの発行店名欄、レシート発行番号欄、発行時点欄等は、ポイントが正規に発生したことを裏付ける重要な証拠となるものであり、ポイントが表示されない単なるレシートにおけるそれとは機能を異にするものである。
したがって、本願考案に係るレシートのように、ポイントが記載されるものにあっては、上記の各欄を記載することは、当業者が適宜選択し得るものではなく、顕著な作用効果を奏するものというべきである。
第3 請求の原因に対する認否及び被告の反論
1 請求の原因1ないし3の各事実は認める。
同4は争う。
審決の認定、判断は正当であり、審決に原告主張の違法はない。
2 取消事由についての被告の反論
(1) 取消事由1について
ア 磁気カードの使用を前提としたシステムについて本願考案の実用新案登録請求の範囲においては、原告主張のシステムそのものはまったく記載されていない。
したがって、原告の、「本願考案に係るレシートは、磁気カードの使用を前提としたシステムが背景となっている」との主張は、本願考案の要旨に基づかないものであり、失当である。
イ 本願考案における「カード」の意義について
(ア) 本願考案の実用新案登録請求の範囲においては、「カード」という文言はあるが、「磁気カード」という文言の記載はない。
また、上記登録請求の範囲には「預り金額欄」、「釣銭額欄」との記載があることから、本願考案のレシートは、現金販売をその対象として含んでいるものというべきである。
したがって、本願考案の「レシート」において利用される「カード」は、「磁気カード」に限定されるものでないことは明らかである。
更に、上記登録請求の範囲における他の記載を参酌しても、そこにおける「カード」を「磁気カード」と解釈すべき理由は存在しない。
(イ) 原告は、国語辞典における「カード」の語義について主張するが、「カード」の技術的意義は、上記意味の範囲で一義的に理解することができ、このような「カード」は、次における各公報の記載からみても、磁気カード以外のものを含んでいると解される。
a 乙第2号証(昭和58年特許出願公告第42907号公報)
上記公報には、クレジットカードに関し、「個人に関する情報を記録した個人カードの記録媒体としては、磁気記録面、文字、バーコード、穿孔などがある」(2欄5行ないし7行)と記載されている。
この記載は、「カード」の一種であるクレジットカードには、磁気記録以外の文字、バーコード、穿孔等を記録媒体としたものが含まれていることを示している。
b 乙第3号証(昭和56年実用新案登録願第197149号の願書に添付の明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルムの写)
上記明細書には、「身分証明書、銀行カード、会員証、クレジットカード等に見られるようにプラスチックカードが非常に多く利用されており、上記カードをそのまま使用するかまたは上記カードに磁気記録方式を用いて各種情報を記録し、磁気カードとして機能するように構成して使用されている。」(1頁14行ないし19行)と記載されている。
この記載は、「カード」の一種であるクレジットカードが、磁気記録方式を用いないで使用されることを示している。
このように、本願考案に係る「カード」の技術的意義は明確であり、その「カード」は、磁気記録以外の情報記録手段からなるカードを含むものであるから、「磁気カード」に限定して解釈されるべきではない。
(ウ) 本願明細書の「考案の詳細な説明」欄にも、「カード」の定義は記載されていない。
また、上記「考案の詳細な説明」欄には「磁気カード」の記載はあるが、それは、単に、本願考案の「レシート」において使用される「カード」の一実施例として記載されているだけである。
更に、本願考案は、「レシート」の考案であるから、本願考案の「レシート」における「カード」の役割は、上記「考案の詳細な説明」欄に、「カード番号は顧客を特定するために任意に定められる。」(本願公報5欄24行ないし25行)と記載されているように、顧客の特定、つまり本人の確認にある。本人を確認するためには、本人であることを証明する情報が与えられればよい。それは、単なる文字、バーコード、穿孔、押し型表示等であっても達成できるものであって、磁気カードである必要はない。
したがって、本願明細書の「考案の詳細な説明」欄を参酌したとしても、「カード」を「磁気カード」と限定して解釈すべき理由はない。
(エ) なお、本願考案の実用新案登録請求の範囲に、「今回ポイントを含み今回購入時までの所定期間の購入により発生したポイントを累計した累計ポイント」と記載されていることについても、そのことから、直ちに、本願考案における累計ポイントの計算が、磁気カードの使用によるシステムを前提としたものとは解されない。本願考案の「レシート」にとっては、累計ポイントの演算ができれば、いかなる演算方法を採用してもよいのであって、その演算方法は、例えば、1台のレジスターのみによる演算も含むのである。
(オ) 以上のとおりであるから、本願考案における「カード」を「磁気カード」と解すべきであるとする原告の主張も、本願考案の要旨に基づくものではなく、失当というべきである。
ウ 引用発明1における「顧客コード番号欄」が本願考案における「カード番号欄」に相当することについて
(ア) 引用発明1においては、各顧客毎に、顧客コードと集計エリアが用意されており、今回の買上げ金額に対するクーポン券枚数を集計エリアに加算するものとされているが、そのためには、各顧客毎に、対応するコード番号についての情報をキャッシュレジスタに入力しなければならないことは明らかである。
また、引用発明1における「第3の方法」(引用例1・4頁左上欄11行ないし右上欄8行)を採用する場合(すなわち「クーポン券の払出しを要求するケース」)とは、それまでに蓄積した累計ポイントである「集計値Ci」をクリアして、景品等を受ける権利を表すクーポン券兼レシートの発行を要求する場合であるから、要求する顧客の本人確認が必要である。つまり、「顧客コード」を顧客に証明させる必要がある。
以上のことからみるならば、引用発明1においては、各顧客が、各人に対応したコード番号情報を示すものを有していることは明らかである。
そして、前記乙第2号証に「個人に関する情報を記録した個人カード」と記載されているように、個人情報の担持体として、カードを用いることは周知技術である。
また、一般に、多数の人と数字を対応させるために、多数の人にカードを携帯させることは慣用とされている(学生証、社員証等)。
(イ) したがって、審決が、「それぞれの顧客がコードを表すものを持っているこど(つまり、コードを表すカードに相当するものを商品購入に利用すること)が前提となるので、引用発明1の「顧客コード番号欄」は、本願考案の「商品の購入に利用したカードの番号が記載されたカード番号欄」に相当する。」と認定したことには誤りはない。
エ 本願考案の「カード番号欄」による作用効果について
(ア) 原告は、本願考案に係るレシートが「金券としての機能」を有するものと主張するが、それは、本願考案において「磁気カード」が使用されることを前提とするものであるから、本願考案の要旨に基づくものとはいえない。
更に、本願明細書には、「レシートの各欄の記載から顧客及び購入実績の特定が可能であるためレシートを一種の金券として機能させることができ」(本願公報5欄末行ないし6欄3行)と記載されているように、本願明細書の「考案の詳細な説明」欄における「金券としての機能」の意味は、レシートの記載により顧客と購入実績を特定することであり、顧客データベースとの照合により顧客を特定することではない。また、本願考案のレシートにおける、「商品の購入に利用したカードの番号が記載されたカード番号欄」の機能も、顧客の特定にある。
他方、引用発明1のレシートにおける「顧客コード」により、顧客の特定が可能であることは前記ウのとおりである。
したがって、引用発明1と本願考案とは同様の作用効果を奏するものである。
(イ) 原告の主張に係る、本願考案のその余の作用効果も、いずれも、「磁気カード」及び特定のシステムを前提とするものであり、本願考案の要旨に基づくものとはいえない。
(ウ) なお、原告は、引用発明1においては、サービスとして「クーポン券兼レシート」を受け取るのに対し、本願考案のサービスは、割引や景品等具体的なものである点において相違するとも主張する。
しかしながら、上記主張は、取消事由1の問題と関連するものでないばかりか、本願考案はレシートについての考案であり、その実用新案登録請求の範囲にはサービスそのものについて一切記載がなく、上記請求の範囲の記載によるとどのようなサービスが行われることになるのか、まったく不明である。
したがって、原告の上記主張も、本願考案の要旨に基づくものとはいえない。
(2) 取消事由2について
ア <1>について
原告の、本願考案の「累計ポイント欄」は、複数の店舗もしくはレジスタでの買上げ金額に対するポイントの累計であるのに対し、引用発明1の「集計値」は、一つのレジスタでの買上げ金額に対するポイントの累計である点において相違するとの主張は、原告主張のシステムを前提としたものであるが、前記のとおり、システムは本願考案の要旨ではない。
したがって、原告の上記主張も、本願考案の要旨に基づいたものではない。
イ <2>について
原告は、本願考案の「累計ポイント」が、具体的なサービスと交換を請求できる量を表示しているのに対し、引用発明1の「集計値」はそれを正確に表示していないと主張する。
しかしながら、前記(1)エ(ウ)のとおり、本願考案の実用新案登録請求の範囲には、サービスそのものについて一切記載されておらず、上記請求の範囲の記載からは、享受できるサービスの内容がまったく不明であるため、本願考案の「累計ポイント」が割引や景品等の具体的サービスとのみ交換されるものであるとは限定できない。
したがって、原告の上記主張は、本願考案の要旨に基づいたものとはいえない。
また、その点はさて置くとしても、引用発明1の「第2の方法」による「クーポン券兼レシート」に記載された「集計値」は、未だ「第3の方法」による「クーポン券兼レシート」や「特別クーポン券」(これらも、具体的なものとの交換が約束されたものであるから、サービスの範疇に入る。)に交換されていない、未清算分の累計ポイントを表示しており、一方、本願考案の「累計ポイント」も、具体的なサービスと交換されていない未清算分の累計ポイントを表示している。
したがって、いずれも、未清算分の累計ポイントを正確に表示している点においては同じであるから、引用発明1の「集計値」は、本願考案の「累計ポイント」に相当するものである。
(3) 取消事由3について
ア 引用発明1における「第1の方法」によるレシートと、「第2の方法」たよるレシートとは、いずれも、購入金額とポイントが併記されたレシートである点において共通しており、また、乙第1号証(昭和52年特許出願公開第42342号公報)中に、「奉仕料」あるいは「税金」(本願考案の「今回ポイント」に相当する。)と、「合計金額」(本願考案の「累計ポイント」に相当する。)が示されているように、レシートにおいて、購入金額の中間換算値と最終算出値とを併記することは、周知技術である。
したがって、引用発明1の「第1の方法」における、購入金額欄と今回ポイント欄とを併記するやり方を、「第2の方法」のレシートに適用して、中間算出値である今回ポイント欄と最終算出値である累計ポイント欄とをレシートに併記することは、当業者がきわめて容易になし得た程度のことである。
イ また、原告主張の作用効果のうち、レシートに累計ポイントのみを表示する場合の問題点についてみるに、
(ア) 原告は、累計ポイントのみが表示されるならば、顧客において「購入額に応じた「今回ポイント」が「累計ポイント」に加算されていることの確認ができないため、次の購入に繋げるためのポイント効果が弱い」と主張する。
しかしながら、顧客において、今回ポイントが累計ポイントに加算されていることを確認するためには、前回までの累計ポイントと、今回ポイントと、今回の累計ポイントとが表示されていなければならない(顧客に、前回のレシートを所持していることや、前回までの累計ポイントを記憶していることを期待することは実際的でない。)。
しかるに、本願考案のレシートには、前回までの累計ポイントの表示がないから、本願考案においては、この問題点を解消することはできない。
また、仮に、引用発明1の「第2の方法」によるレシートに、前回までの累計ポイントが表示されているならば、単に購入額に換算率を乗じることにより、今回ポイントが分かり、前回までの累計ポイントに今回ポイントを加算して、今回の累計ポイントを算出することができ、レシートに記載されている累計ポイントが正確か否かを確認することができる。
したがって、引用発明1のレシートも、本願考案と同様に、今回までの累計ポイントの確認が可能であるから、原告の主張は妥当でない。
(イ) また、原告は、累計ポイントのみを表示するならば、「今回ポイントが規定の換算率で付されているか否か確認できず、ポイントサービスに対する不信感に繋がりかねない。」「販売促進策として、ポイントを通常の2倍ないし3倍とした場合にも、そのポイントの表示がないと、そのことが顧客に認識されず、効果が半減する。」と主張する。
しかしながら、いずれも、単に、購入金額に対する換算率を確認できないという問題点であり、購入金額と今回ポイントとが併記されていれば解決されることであって、今回ポイントと累計ポイントとが併記されていなければならないという問題ではない。
(ウ) 更に、前記アのとおり、レシートにおいて「今回ポイント」と「累計ポイント」の両方を記載することが周知事項であることを勘案することによっても、「今回ポイント」と「累計ポイント」を記載するにより格別の作用効果が認められるものでもない。
(4) 取消事由4について
ア 原告は、本願考案に係るレシートを一種の金券として機能させるため、レシートに、発行店名欄等を記載することを要すると主張するが、前記(1)エ(ア)のとおり、本願明細書の「考案の詳細な説明」中における「一種の金券としての機能」とは、レシートの記載事項から顧客と購入実績を特定する機能をいうものである。
そして、本願明細書においては、「本考案のレシートは購入額明細欄及びポイント表示欄の他に、発行店名欄、レシート発行番号欄、発行時点欄、カード番号欄を設けたので、購入額明細を顧客に知らせると共に、顧客及び取引実績を特定して」(本願公報4欄20行ないし24行)と記載されていることからみるならば、本願考案におけるレシートの、購入額明細欄とカード番号欄を除いたその他の欄(ポイント表示欄、発行店名欄、レシート発行番号欄、発行時点欄)の記載は、顧客の購入実績を表すものである。
イ 他方、引用発明1に記載されたレシートにおいても、「コード番号欄」、「集計値欄」が記載されているから、顧客、及び、購入実績の一部であるポイントの特定が可能である。
また、その他の「発行店名」、「発行時点」等を、特にポイントの記載のないレシートに記載することは、原告の認めるように周知事項であり、その機能は購入実績の特定である。
そして、それらが、レシートが正規であることを裏付けるものであることも明らかである。
ウ 以上からみるならば、「発行店名」、「発行時点」等を、本願考案に係るレシートのような、ポイントが記載されたレシートに適用しても、引用発明1におけるレシートに比べて、格別の作用効果が生じるものでないことは明らかであるから、審決の判断に誤りはない。
第4 証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
第1 請求の原因1ないし3の各事実(特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨、審決の理由の要点)については当事者間に争いがない。
また、引用発明1ないし3の内容が審決記載のとおりであること、本願考案における「累計ポイント欄」、「商品の購入に利用したカードの番号が記載されたカード番号欄」が、引用発明1における「クーポン券枚数を集計した集計値欄」、「顧客コード番号欄」にそれぞれ相当することを除いて、本願考案と引用発明1における各構成要件が一致すること、本願考案と引用発明1の間においては、審決記載のとおりの相違点が存在すること、相違点3についての判断が審決記載のとおりであることについても、当事者間に争いがない。
第2 本願考案の概要について
成立に争いのない甲第2号証(本願公報)によれば、本願考案の概要は以下のとおりであることが認められる。
1 本願考案は、デパート、小売店等において商品を購入したり、自動車の修理、保険の契約等のサービスの提供を受けたりした際に受け取るレシートに関するものである(1欄24行ないし2欄2行)。
2 近年、商品を購入したり、サービスの提供を受けたりした際に、カードを用いて支払をするシステムが多く採用されている。特に、デパート、チェーン化小売店、クレジット販売店等においては、自社カードを発行し、自社カードを通じて顧客の固定化を図り、顧客情報を収集しようとしている。そのため、顧客に対し、できるだけ自社カードを継続して使用してもらう必要があることから、購入額に応じて割引をしたり、景品を提供する等のサービスを行い、顧客が継続的にカードを使用する動機付けを行おうとしている。
顧客に対し、商品の購入額に応じて割引をしたり景品を提供したりすることは、従来から、ブルーチップスやグリーンスタンプ等と称される切手状のサービス点数券を、商品購入の度に手渡すことにより行われていた。しかしながら、このような従来のシステムにおいては、購入の度に購入額に応じた点数券が渡されるため、紛失しやすく、また、割引や交換のサービスを受けるためには、顧客において、点数券を定められた台紙に貼付して保管しなければならず、顧客に大きな負担を強いるものであった。そのため、点数券を継続的に収集する顧客が少なく、サービスが顧客の固定化に十分な効果を果たしているものとはいえなかった。
これに対し、昭和55年特許出願公開第28176号公報には、レシートにサービス点数を記録して、レシートを点数券の代わりにするという技術が記載されている。この技術によれば、購入額が多い場合でも1枚のレシートで済むため、点数券の多い場合に比べて簡便であるという利点がある。しかしながら、購入毎のレシートを紛失せずに保管しなければならないため、依然として顧客にとって煩わしいものであった。また、レシート毎に記載された点数が異なるため、サービス点の合計値が分からず、享受できるサービスの価値が明確ではなかった。
また、昭和58年特許出願公開第149561号公報には、サービス点数の累計値をクーポン券兼レシートに印字する技術が記載されている。この技術によれば、サービス点数を顧客側において集計する必要がなく、便利である。顧客は、点数券を貼付した台紙を保管する代わりに、累計値が記載されたクーポン券兼レシートを持って行けばよい(2欄4行ないし3欄28行)。
3 しかしながら、これらの従来技術においては、レシートが、サービス点数券を兼ね、割引や景品を享受する価値を示す一種の金券として機能しているにもかかわらず、紛失した場合には、利益を享受できる顧客を特定することができず、拾われて悪用されるおそれがある。特に、サービス点数の累計値が記録されたレシートの場合には、享受できるサービスの価値が高いため問題であった(3欄30行ないし37行)。
4 本願考案は、上記の事情を考慮してなされたものであり、購入額明細書として機能させるとともに、一種の金券としても機能させることができるレシートを提供することを目的として、要旨記載の構成を採用したものである(3欄38行ないし4欄18行)。
5 本願考案の一実施例を示すならば、別紙図面(1)記載のとおりである(4欄27行及び28行)。
また、本件考案の実施例によるレシートを発行するシステムについては、請求の原因4(1)ア(ア)ないし(キ)に記載のとおりである(6欄9行ないし7欄1行)。
6 本願考案においては、顧客が、レシートを一見することにより、商品購入の明細及び享受することの可能なサービスを知ることができるという作用効果を生じる。また、レシートにより、顧客及び取引実績の特定が可能であるため、レシートを一種の金券として機能させることができ、顧客に大きな負担を強いることなく、サービス点を発行して、顧客の固定化に有効に対処することができるという作用効果も奏する(4欄20行ないし25行、8欄2行ないし8行)。
第3 審決取消事由について
そこで、原告主張の審決取消事由について判断する。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について
(1) まず、本願考案における「カード番号欄」の「カード」の意義について検討するに、
ア 原告は、上記「カード」とは「磁気カード」を意味するものと解すべきである旨を主張する。
イ しかしながら、実用新案出願に係る考案の要旨の認定は、実用新案登録請求の範囲に記載された技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか、あるいは、一見してその記載の誤記であることが考案の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなど、考案の詳細な説明の記載を参酌することが許される特段の事情のない限り、実用新案登録請求の範囲の記載に基づいてなされるべきである(最高裁判所判決平成3年3月8日民集45巻3号123頁参照)。
そして、これを本願考案についてみるならば、
(ア) 本願考案の実用新案登録請求の範囲には、レシートの「カード番号欄」について、「商品の購入に利用したカードの番号が記載されたカード番号欄」と記載されており、本願考案における「カード」が商品の購入に利用されたカードを指すものであると理解されるが、その「カード」が「磁気カード」であることについては、特に記載がない。
(イ) また、上記登録請求の範囲におけるその他の記載についてみても、本願考案における「カード」が「磁気カード」であると解すべきことを特に示唆する部分は見出だせない(上記請求の範囲における、「今回ポイント欄」と「累計ポイント欄」とを有する「ポイント表示欄」の記載についても、そこからは、レシートを発行する機器に、今回の購入合計額に応じて今回ポイントを算出する機能と、今回ポイントを含み今回購入時までの所定期間内に発生したポイントを累計する機能とが備わっていることまでは認めることが可能であるが、そのことから、直ちに、本願考案が「磁気カード」の使用を前提とするものであると解することは困難である。)。
(ウ) 更に、上記(ア)のとおり、商品を購入する際に「カード」が利用されるとした場合、その「カード」が磁気カードであることが自明であるか否かについてもみるならば、
a 成立に争いのない乙第2号証(昭和58年特許出願公告第42907号公報)によると、同号証においては、カードの一種であり、商品を購入するにあたって利用されるクレジットカードに関し、「上記カード類のように個人に関する情報を記録した個人カードの記録媒体としては、磁気記録面、文字、バーコード、穿孔などがある」(2欄5行ないし7行)と記載されていることが認められ、クレジットカードが、磁気記録以外の文字、バーコード、穿孔等を記録媒体としたものを含むことが示されている。
b また、成立に争いのない乙第3号証(昭和56年実用新案登録願第197149号の願書に添付の明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルムの写)によると、同号証においては、「最近、身分証明書、銀行カード、会員証、クレジットカード等に見られるようにプラスチックカードが非常に多く利用されており、上記カードをそのまま使用するかまたは上記カードに磁気記録方式を用いて各種情報を記録し、磁気カードとして機能するように構成して使用されている。」(1頁14行ないし19行)と記載されていることが認められ、そこにおいても、カード、特に、商品購入に使用されるクレジットカードが、磁気記録方式によらずに使用され得ることが示されている。
上記のような各記載からみるならば、本願考案における「カード」自体の意義としても、本出願当時における技術常識からみて、それを「磁気カード」であると解することができないことは明らかである。
(エ) 以上によれば、本願考案の実用新案登録請求の範囲に記載された「カード」を、原告主張のように「磁気カード」に限定されるものと解すべき理由はないものというべきである。
ウ なお、ここで、本願明細書における「考案の詳細な説明」欄の記載についても検討を加えてみるに、前出甲第2号証によると、同欄には、「磁気カード」について、前記第2、5(請求の原因4(1)ア(ア)ないし(キ))のとおり記載され、また、「このシステムを利用することにより、顧客を長時間待たせることなく、磁気カードを介して今回ポイント及び累計ポイントを即時に計算して直ちにレシートに記録することができる。また、レシートを紛失しても累計ポイントが顧客データバンクに記録されているので、磁気カードと共に照会することにより、レシートを再発行して累計ポイントのサービスを受けることができる。」(7欄2行ないし9行)と記載されていることも認められる。
しかしながら、上記甲第2号証の記載によるならば、上記各記載は、いずれも、本願考案の一実施例についての説明であるに過ぎず、本願考案自体の構成及び作用効果について記載されたものでないことが明らかであり、そのほかに、本願明細書の「考案の詳細な説明」欄において、本願考案に係る「カード」が、磁気カードに限定されるべきことを示す記載は見当たらない。
そうすると、本願明細書における「考案の詳細な説明」欄の記載を考慮したとしても、本願考案における「カード」を「磁気カード」に限定すべき理由は存在しないものというべきである。
エ 以上のとおりであるから、本願考案における「カード番号欄」の「カード」を「磁気カード」と解すべきであるとする原告の主張は失当である。
オ また、原告は、上記に関連し、本願考案に係るレシートについては、「磁気カード」の使用を前提とする「システム」がその背景になっているとも主張する。
(ア) しかしながら、本願考案に係るレシートにおいて、「磁気カード」の使用を要件とするものでないことは上記のとおりであり、また、上記システムについては、本願考案の実用新案登録請求の範囲中に何らの記載もない。
(イ) 更に、原告は、本願考案に係るレシートには、「今回ポイント欄」と、「今回ポイントを含み今回購入時までの所定期間の購入により発生したポイントを累計した累計ポイントが記載された累計ポイント欄」(本願考案の実用新案登録請求の範囲の記載)とが存するところ、「磁気カード」の存在を前提とした一定の演算を行うシステムがなければこのような計算はなし得ないとも主張するが、このような計算機能は、例えば、一台のキャッシュレジスタのみでも実現可能であることは明らかであるから、この点も、原告主張のシステムの存在を裏付けるものではない。
(ウ) したがって、原告の上記システムについての主張も失当というべきである。
(2) 次に、本願考案における「カード」についての、上記以外の具体的な意義内容に関しては、本願考案の実用新案登録請求の範囲の記載全体からみても、必ずしも明らかであるとはいえない。
そこで、本願考案に係るレシートに「カード番号欄」を設けることの技術的意義について、更に本願明細書における「考案の詳細な説明」欄の記載内容を検討するに、
ア 前出甲第2号証によると、本願明細書の同欄においては、「作用」の項に、「本考案のレシートは購入額明細欄及びポイント表示欄の他に、発行店名欄、レシート発行番号欄、発行時点欄、カード番号欄を設けたので、購入額明細を顧客に知らせると共に、顧客及び取引実績を特定して、レシートに金券としての機能を持たせることが可能である。」(4欄20行ないし25行)と記載されていること、また、「実施例」の項には、「カード番号欄20には顧客が商品購入の際に使用したカードの番号が記載さて(「されて」の誤記と認められる。)いる。カード番号は顧客を特定するために任意に定められる。」(5欄22行ないし25行)と記載されていること、更に、「考案の効果」の項には、「顧客及び購入実績の特定が可能であるため一種の金券としてレシートを機能させることができ」(8欄4行ないし6行)と記載されていることがそれぞれ認められる。
イ 上記各記載からみるならば、本願考案における「カード」とは、商品の購入の際に利用されるカードを意味するものであることのほかに、「カード番号」とは、上記カードに記録され、顧客を特定するために定められる番号を意味し、「カード番号欄」とは、レシートにおける上記カード番号を付した欄を意味するものであると解される。
(3) 以上(1)及び(2)の事実によれば、本願考案に係るレシートとは、「磁気カード」の存在を前提としたものではなく、また、「カード番号欄」の「カード」とは、商品の購入時に使用され、顧客を特定するために用いられるものと解されるほか、本願考案に係るレシートの背景をなすシステムとしては、今回ポイントと累計ポイントとが算出可能なものであれば足りるというべきである。
(4) 続いて、引用発明1における「顧客コード番号欄」について検討を加えるに、
ア(ア) 成立に争いのない甲第4号証(引用例1)によると、引用例1には次のとおり記載されていることが認められる。
a 「本発明は、顧客の買上げ金額よりクーポン券の枚数を自動的に算出し、これを集計する機能をもつ電子式キャッシュレジスタ(以下単に「ECR」という)に関する。」(1頁左下欄15行ないし18行)
b 「第4図(3)は各顧客毎にクーボン券の枚数を集計するためのエリア48を示し、顧客コード(図中、001、002、…999で示す)毎の各エリアには空エリアか否かを示す使用フラグF1~Fnおよびクーポン券枚数の集計データC1~Cnがストアされる。」(2頁左下欄2行ないし7行)
c 「顧客コードを有する在来の顧客についてはコード番号(例えば123)を置数した後、クーポン券キー25を押す。(略)顧客コード(例えば123)を有する顧客の場合、置数レジスタ42にコード番号「123」がセットされているから、(略)ステップ93へ進む。ステップ93はこのコード番号に対応する集計エリアの使用フラグFi(但しi=1、2、3、…n)がセット済か否かをチェックするものであり、その判定はYESとなるから、前記のステップ86、87へ進む。」(3頁左下欄6行ないし右下欄16行)
また、上記甲第4号証によると、引用例1の第5図(別紙図面(2)第5図)におけるステップ87に、「集計エリアに演算レジスタの内容加算」と記載され、更に、第6図(1)のレシートの左端及び同図(2)のレシートの末行左端に、「123」と記載されていることが認められるが、上記「123」については、上記事実からみて、顧客コード番号であることが明らかである。
(イ) 上記(ア)の記載からみるならば、引用発明1の電子式キャッシュレジスタには、商品を購入する各顧客毎に、顧客コードと集計エリアが用意されており、顧客毎に、それに対応するコード番号(例えば123)を置数してキャッシュレジスタに入力し、今回の買上げ金額に対するクーポン券枚数を、その集計エリア内に加算することが開示されているものと認められる。
そうすると、引用発明1における「顧客コード番号」とは、クーポン券枚数を集計、管理するにあたり、顧客を特定するためのものであることが明らかである。
イ(ア) ところで、引用例1においては、上記の「顧客コード番号」がどのような方式により認識されるものか、すなわち、カードを用いて表示されるものであるか否かについては記載されていない。
(イ) しかしながら、多数の顧客を対象とするレジスタでの置数作業において、顧客のコード番号の確認が、コード番号が記録された媒体に基づくことなく、レジ係又は顧客の記憶に頼ってなされるということはおよそあり得ないことである。
また、前出甲第4号証によると、引用発明1における「第3の方法」とは、後記2(2)アのとおり、「商品の買上げとは無関係に、過去集計されたクーポン券の払出しを要求する」場合(4頁左上欄11行ないし13行)、すなわち、それまでに蓄積された景品等を受ける権利を清算し、それに代わるものとして、それのみで景品との交換が可能なクーポン券兼レシートの発行を要求する場合であることが認められるから、店側としても、「第3の方法」によりクーポン券の払出しを要求する顧客については、本人であることを確認する必要、つまり、引用発明1の「顧客コード」を顧客に証明させる必要があることが明らかである。
そうすると、引用発明1においては、各顧客に対し、キャッシュレジスタへの置数によって識別可能なコード番号を示すものを、それぞれ所持させる必要があることになる。
(ウ) そして、個人情報の担持体としての、文字又は数字を記載したカードは、成立に争いのない乙第2号証(昭和58年特許出願公告第42907号公報)中に、「上記カード類のように個人に関する情報を記録した個人カード」(2欄5行及び6行)、「1は利用者各個人に手渡され各個人が保管する個人カードで、カード1の表面には従来のカードと同じく登録番号や簿記的情報が記録された箇所2(略)を有する。」(2欄20行ないし24行)と記載されていることからも明らかなように、本出願前周知のものであったというべきである。
また、本人の身分を証明する学生証、社員証等も、通常、カードの形態が採られており、かつ、それらに番号が付されることが一般的であることは、広く知られている事実である。
(エ) そうすると、引用発明1における「顧客コード番号」についても、本願考案と同様に、カードに付されるべきものと考えて差し支えない。
(5) 以上によれば、引用発明1における「顧客コード番号」も、商品の購入に係る顧客を特定するためのものであり、カードに付されるものであると解されるところであるから、本願考案における「カード番号欄」は、引用発明1における「顧客コード番号欄」に相当するものであることが明らかである。
(6) そうすると、更に、原告の主張に係る、本願考案の「カード番号欄」と引用発明1の「顧客コード番号欄」との不一致を前提とする、両者の作用効果の違いについて判断するまでもなく、「引用発明1の「顧客コード番号欄」は、本願考案の「商品の購入に利用したカードの番号が記載されたカード番号欄」に相当する。」ものであって、この構成において両者は一致するとした審決の認定に誤りはないものというべきであり、原告の取消事由1についての主張は失当である(なお、原告の、上記作用効果の違いについての主張も、本願考案における「カード」が「磁気カード」であることを前提とするものであるから、本願考案の要旨に基づくものとはいえず、いずれも失当というべきである。更に一言すれば、前記第2、2ないし4、6及び前記(2)アからみて、本願明細書に記載された本願考案の「金券としての機能」とは、レシートによりサービスを提供するためになされた、顧客及び購入実績の特定を指すものと解されるところである。)。
2 取消事由2(一致点の認定の誤り)について
(1) まず、本願考案における「累計ポイント」の意義について検討するに、その点に関し、本願明細書においては前記第2、2、3のとおり記載されていること、また、前出甲第2号証によると、本願明細書においては、更に、本願考案の実施例に関し、「本実施例によれば、(略)顧客は(略)ポイント表示欄の記載から自分の受けることができるサービス(割引、景品等)の価値を知ることができる。また、レシートの各欄の記載から顧客及び購入実績の特定が可能であるためレシートを一種の金券として機能させることができ(略)る。」(5欄40行ないし6欄6行)と記載されていることが認められる。
以上からみるならば、本願考案における「ポイント」とは、購入金額に応じて顧客が受けることのできるサービス(割引、景品等)の価値を点数で表したものであり、「累計ポイント」とは、その累計値を意味するものであると解される。
(2) 他方、引用発明1における「集計値」についてみるに、
ア 前出甲第4号証によると、引用例1には次のとおり記載されていることが認められる。
(ア) 「従来スーパー、小売店などでは、一定の買上げ金額(例えば100円)について1枚のクーポン券を顧客へ手渡し、更に顧客がこのクーポン券を所定枚数(例えば500枚)を集めると、これを特別クーポン券に交換する等の方法により、顧客へのサービスをはかっている。」(1頁左下欄19行ないし右下欄4行)
(イ) 「本発明は上記実情に鑑み、ECRにクーポン券の枚数を算出しこれを自動集計する機能を付与することにより、クーポン券の取扱いに付随する煩雑さを解消し、小売業務の能率化および顧客のサービス向上をはかることを目的とする。」(1頁右下欄12行ないし16行)
(ウ) 「顧客が店に対しクーポン券を要求する場合、本実施例では次の各方法によりクーポン券の発行、集計、払出し、更には特別クーポン券の発行を実施している。
第1の方法は、顧客が買上げ金額に応じた枚数のクーポン券の発行を要求するケースであり、この場合には、部門登録終了後クーポン券キー25のみを押操作する。(略)そして最後に合計キー24を押すと、前記ステップ67以下の処理が行なわれ、第6図(2)に示す如く、買上げ明細、合計金額およびクーポン券枚数が印字されたクーポン券兼レシート100が発行される。」(3頁左上欄20行ないし左下欄1行)
(エ) 「第2の方法は、顧客が店側において買上げ金に対するクーポン券枚数を集計し、ストックしておくことを要求するケースであり、(略)アイテマイザ40の合計金額T1をクーポン券1枚当りの買上げ金額Sで割った値、すなわち買上げ金額に対するクーポン券枚数を演算レジスタ46ヘストアし、ステップ87で前記エリアへ演算レジスタの内容が集計値Ci(但しi=1、2、3…n)としてセットされる。(略)。
つぎのステップ88は前記の集計値Ciが特別クーポン券を発行するクーポン券枚数Nを超えたか否かをチェックするものであり、その判定がNOのとき、ステップ92へ進み、この集計値Ciがそのままクーポン券兼レシート100に印字される。」(3頁左下欄2行ないし4頁左上欄2行)
(オ) 「第3の方法は、商品の買上げとは無関係に、過去集計されたクーポン券の払出しを要求するケースであり、この場合にはまず指定取消キー27を押す。(略)続いてコード番号を置数してクーポン券キー25を押すと、(略)ステップ76へ進む。ステップ76は顧客コード番号に対応する集計エリアの使用フラグFi(但しi=1、2、3…n)がセットされているか否かがチェックするものであり、その判定はYESとなるから、ステップ77へ進み、集計値Ciが第6図(1)に示す如く、クーポン券兼レシート101に印字される。」(4頁左上欄11行ないし右上欄5行)
また、前記1(4)ア(ア)のとおり、引用例1の第5図におけるステップ87には、「集計エリアに演算レジスタの内容加算」と記載されている。
イ 以上によれば、引用発明1における「集計値Ci」とは、顧客の買上げ金額に対応するクーポン券枚数を、演算レジスタ46により累積加算した数値であることが明らかであり、また、そのクーポン券枚数とは、顧客が受けることのできるサービス(割引、景品等)の価値を点数で表したものであることも明白である。
そして、引用例1には、ECR(電子式キャッシュレジスタ)により、クーポン券兼レシートを発行すること及びそのクーポン券兼レシートに対し、第1の方法においては、買上げ金額に応じたクーポン券枚数が印字され、第2、第3の方法においては、買上げ金額に対応するクーポン券枚数の集計値が印字されることが記載されているものと認められる。
(3) そうすると、本願考案における「累計ポイント」と、引用発明1におけるクーポン券兼レシートに印字された「集計値」とは、ともに、購入金額に応じて顧客が受けることのできるサービス(割引、景品等)の価値を点数で表した点において変わりがないことが明らかであるから、引用発明1における「クーポン券枚数を集計した集計値欄」は、本願考案における「累計ポイント欄」に一致するものというべきである。
(4) これに対し、原告は、本願考案の「累計ポイント」が、複数の店舗又は複数のレジスタでの買上げ金額に対するポイントの累計であるのに対し、引用発明1の「クーポン券枚数を集計した集計値」は、一つのレジスタでの買上げ金額に対するポイントの累計であるから、本願考案の「累計ポイント」は、引用発明1の「集計値」に相当するものではないと主張する。
しかしながら、本願考案の実用新案登録請求の範囲における「累計ポイント」については、前記1(1)オ(イ)のとおり、一台のキャッシュレジスタによっても実現可能なものというべきである上、そもそも、原告の上記主張は、「磁気カード」による原告主張のシステムの利用を前提とするものであるから、前記1(2)において判示のとおり、本願考案の要旨に基づくものではなく、失当というべきである。
(5) また、原告は、本願考案の「累計ポイント」が、現在において、レシートとの交換を請求し得る具体的なサービス量を、過不足なく示すものであるのに対し、引用発明1の「集計値」は、上記の具体的なサービスの量を正確に表示していないとし、両者は、その点において構成を異にすると主張する。
しかしながら、本願考案の「累計ポイント」が、現在において請求できる具体的なサービスの量を過不足なく表示するためには、上記の「累計ポイント」の表示にあたり、過去に発行されたレシートの「累計ポイント」が既にサービスと交換されているか否かを確認する必要があるものと考えられるが、その点を、本願考案に係るレシートの記載事項のみから確認することが不可能であることは明らかである。したがって、上記のとおり交換の有無を確認して「累計ポイント」を表示するためには、「磁気カード」及び原告主張のシステムの利用を前提とする必要があるものというべきであるところ、上記の「磁気カード」及びシステムが本願考案の要旨と無関係なものであることは、前記1(2)のとおりである。
そうすると、本願考案における「累計ポイント」が、現在において請求できる具体的なサービスの量を過不足なく表示しているものとする原告の主張も、本願考案の要旨に基づかないものとして失当といわざるをえない。
(6) したがって、本願考案における「累計ポイント欄」は引用発明1における「クーポン券枚数を集計した集計値欄」に相当するものであって、この構成において両者が一致するとした審決の認定に誤りはないものというべきである。
3 取消事由3(相違点1の判断の誤り)について
(1) 引用発明1において、クーポン券の発行の態様に応じ、「今回ポイント」を表記するレシートと、「累計ポイント」を表記するレシートの双方が示されていることについては、前記第1のとおり当事者間に争いがない。
そして、レシートにおいて、上記の「今回ポイント」と「累計ポイント」の両方を併記することについては、レシート用紙における表記上、格別の困難が存在するものとは認められないところである。
また、成立に争いのない乙第1号証(昭和52年特許出願公開第42342号公報)によると、同号証には、レシートについて、「プリントアウトは第4図に示すように<1>登録データ、<2>小計、<3>奉仕料、<4>税金、<5>値引き金額、<6>合計金額の順に行なわれる。」(3頁左上欄6行ないし8行)と記載されていることが認められるところ、そのうち、奉仕料、税金は、いずれも購入額に対する換算値に相当するものであり、合計金額は、購入金額、奉仕料、税金を合計した金額を意味し、購入額に対する換算値を含めた累計額に相当するものと解される。このように、換算値と、換算値を含めた累計額をレシートに記載することは、乙第1号証のみならず、日常生活において普通に見られる表示方法である。
以上の事実からみるならば、引用例1に記載のクーポン券枚数とその集計値を併記するようにし、相違点1に係る本願考案と同一の構成を得る程度のことは、当業者が、必要に応じ、きわめて容易に想到し得た程度のものに過ぎないことが明らかである。
(2) そして、原告が主張する、レシートに、「今回ポイント」と「累計ポイント」が記載された場合の作用効果についても、いずれも、当業者であればその構成から当然に予想される範囲内のものに過ぎないところであるから、格別顕著なものと認めることはできない。
(3) したがって、審決における相違点1の判断にも誤りはないものというべきである。
4 取消事由4(相違点2の判断の誤り)について
一般に、レシートに、発行店名欄、レシート発行番号欄、発行時点欄、預り金額欄、釣銭額欄を記載することが周知であることは、当事者間に争いがない。
そして、レシートにおける上記各欄の記載は、レシートが正規に発行されたことを裏付けるものであることは明らかであり、そのことは、レシートに「ポイント」が記載されているか否かにかかわらないものであることは当然である。
そうであれば、レシートに上記の事項を記載することによって、レシートとして格別の作用効果が生じる余地はあり得ず、引用発明1のレシートに、上記周知の事項を適用することは、当業者が適宜選択し得る事項であることは明らかである。
したがって、審決における相違点2についての判断にも誤りはないものというべきである。
第4 以上によれば、審決には原告主張の違法はなく、その取消しを求める原告の本訴請求は理由がないものというべきであるから、これを棄却することとし、訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、94条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 春日民雄 裁判官 持本健司)
別紙図面(1)
<省略>
図面の簡単な説明
第1図は本考案の一実施例によるレシートを示す図である.
10…レシート、12…発行店名欄、14…レシート発行番号欄、16…発行時点欄、18…購入額明細欄、18a…商品名欄、18b…購入額欄、18c…合計欄、18d…預り金額欄、18e…釣銭額欄、20…カード番号欄、22…ポイント表示欄、22a…今回ポイント欄、22b累計ポイント欄.
別紙図面(2)
<省略>
<省略>
図面の簡単な説明
第1図はECRの斜視図、第2図はキー操作部の平面図、第3図はECRの回路構成例を示ずブロツク図、第4図(1)(2)(3)はRAMのメモリ内容を示す説明図、第5図はECRの動作を示ずフローチヤート、第6図(1)(2)はクーポン券兼レシートを示す説明図である。
1……ECR 2……キー操作部
20……置数キー 25……クーポン券キー
30……制砌部 32……RAM
別紙図面(3)
<省略>
別紙図面(4)
<省略>